犀角(Diceros Horn)

とくながの「書き散らかし」です

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Sun, 12 Feb 2006

『計算物理学 基礎編』R.H.ランダウ 朝倉書店

これから計算物理を本格的に取りこもうという大学院生レベルに特にお勧め。 いろいろな科目で断片的に習う知識、例えばハードウェア、誤差論、数値積分、 微分方程式、固有値問題などが有機的に結びついて、研究の手法と方向性を 与えてくれる(はずの)とっても有用な本。 プログラミングにおける陥りやすいミス、誤差を少なくするための手法などを 読むと、私が今まで漠然とコーディングしてきたプログラムを、 見直してみたい気にさせられた。

読者はそれぞれ、それまでの学習の背景に従って、 良くわかる章と、ほとんどわからない章が混在していると思う。 そこで、ほとんどわからない章を熟読してほしい。 どの章も初学者でも馴染みのある例から本質に深く切り込んで行くので、 学びやすくなっている。手法の説明はかなり詳しく、プログラミングの素養があれば すぐにでもコーディングできるだろう。

ただし、実際の物理の問題を多数扱っているわけではなく、プログラム例も少ない。 実例を期待している読者にはお勧めできない。 テキストとして一読しようとする読者か、 既にテーマを持っている人が、良い手法はないかと探そうとする場合は 役に立つだろう。

いずれにせよ、この分野を系統的に学習する成書はまだまだ少ないが、 数少ない中ではよいのではないだろうか。

内容:

  • データ解析(実験データから最適な曲線を決める方法)
  • 非調和振動(非線型な摂動が加わった場合)
  • サブルーチンライブラリ(インターネット上の数値計算ライブラリの紹介)
などなど。

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『「無限」に魅入られた天才数学者たち』アミール・D・アクゼル 早川書房

直前に読んだ「史上最大の発明アルゴリズム」とは対照的に、 カントールのひととなりを主題にして、一般人が漠然と理解している 「無限」の面白さ、難しさ、パラドックスを紹介している。 出てくる例は必要最小限でありながら、 エッセンスを理解しやすいように工夫されている。

もちろん「無限」をめぐる多彩な物語もドラマティックに語られていて、 数学基礎論の話を既によく知っている人でも、面白く読めると思う。

内容はギリシア時代の素朴な意味での「無限」の発見から、 ユダヤ教における無限の解釈、および無限に関する古典的な問題を 紹介した後、 実数の定義、対角線論法、アレフ、連続体仮説、選択公理など 集合論でおなじみの話が続く。不完全性定理とコーエンによる 証明のあたりが、この本のクライマックス。

それとほぼ同時進行で、カントールの伝記にもなっていて、 カントールの足跡をたどりながら、取り組んだ問題の説明をしていくと言う 書き方で、彼の業績がその当時どのように評価され、どのような影響を与えた のかもよくわかる。

宗教的なところや、「無限」にかかわる人物の受難を強調し過ぎている 感はあるが、数学者の活動がいきいきと描写されており、一気に読んでしまっ た。数学を勉強してみようと言う気持ちを高めてくれる本。 大学学部生ぐらいが読むと一番楽しめるかもしれない。

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『史上最大の発明アルゴリズム』デイヴィッド・バーリンスキ 早川書房

自分の専門に近ければ近いほど、一般書の評価が厳しくなるのは 仕方がないかもしれない。知合いの経済学の先生は、経済小説は 全く面白くないと言っているし。

解説書でも、歴史を解説したものでも、 フィクションでもなく、それらが交錯して進展して行く不思議な書物。 しかし正直言って、何が言いたいのかよくわからない。 カントール、ゲーデル、チューリングらの業績を紹介したいのなら、 寄り道せずに、一歩一歩彼らが通った道筋をたどるべきだろう。 実際、そういう内容を期待して購入した。

しかし実際は、既に知っている人にとってはまどろこしい説明で、 初めて触れる人にはわかりにくい説明でしかない。 文学や歴史などのエピソードを交えながら、 主題があちらこちらに揺れるのは、ストレートに理解したいものに とっては邪魔である。

数学基礎論の細かい議論のところを、あまり適切でない例をあげて それで説明を済ましているところも多く、数学書としてはあまりお薦めできな い。しかし「物語」としてなら楽しめるかもしれない。

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『小説ヘッジファンド』幸田真音 講談社文庫

題名の通り、ヘッジファンドの解説書ではなくて小説である。 ヘッジファンドとはいうまでもなく、個人の資金を投機的に 運用する投資信託であるが、そんな教科書的な説明よりも、 小説の中でその現場の様子をいきいきと表現することで、 実体を持つものとして読者に感じさせてくれる。

読み進めているうちに、自分がディーラーになったような興奮 が感じられる。作者の実際の経験からきているものだろう。 取り引き前の準備、実際の取り引き中のスピード感、 市場が思い通り動いたときの喜びと、 裏切られたときの落胆。これらが実に生々しく描写されている。

登場人物も少なく、性格設定も単純化されすぎているきらいはあるが、 それが小説の世界への没入を促進しているのかもしれない。 主人公が新入り者というのも、誰もが一度は感じたことのある 新しい世界への不安や、反発の気持ちを主人公との間で 共有しやすい。主人公に限らず、特にエンディングなどちょっと青臭いというか、 理想主義的なところもあるが、それも作者の現実の市場に対する メッセージなのかもしれない。

とにかく一気に読める。また一気に読んで欲しい。 上質の、楽しめる、経済小説。

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『プログラムはなぜ動くのか』矢沢久雄 著 日経BP

昔はコンピュータを使おうとすると、CPU やメモリ、I/O などを 意識しなければならなかったが、最近はそこまで意識しなくても 使えるようになっている。これはもちろん喜ばしいことだが、 反面、(とくに学生諸君は)ある特定のソフトウェアの使い方を 覚えただけで、コンピュータに詳しいような顔をしていて、 基本となっている技術をほとんど知らないのには驚かされる。

この本はそのような人にもわかりやすいように、 ハードウェアからソフトウェアまで一から詳しく書いてある。 設定画面ででてくる呪文のような言葉の意味もきっとこの本を 読み終わったときにはわかるようになっているだろう。

言葉の意味以外にも、基本的な動作のしくみ(題名通り!)は、 非常にわかりやすく説明されている。 メモリの使い方、データの圧縮、OSの説明などは、 今までなんとなくわかっていた人も、この本の丁寧で 簡潔な説明によりさらにその理解が深まるだろう。 また、2進数についての説明も詳しい。 学生諸君はこの本を読んで、コンピュータの中ではすべて2進数で 処理されているのだと言うことを、もっと常に意識してほしいと思う。

「ハードウェアのことなんか知らなくてもよい」 「ワード、エクセル、パワーポイントが使えれば充分」 と言う意見もあるだろうが、私はそうは思わない。 単なる消費者ではなくて、コンピュータを使って仕事をすることを 目指すならば、これくらいは常識の範囲にしておいてもらいたい。

『楽をするだけではダメです。なぜ楽ができるかを知ってから、楽をして下さい。』 という本文中の言葉を最後に引用しておきたい。

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『計算物理の世界』大西楢平 他 著 共立出版

著者らは実際の計算物理の専門家で、実際のシミュレーション結果や 大きな進展のきっかけとなった理論を多数挙げてあるので、専門外の人でも 計算物理の雰囲気はつかめるのではないだろうか。

それぞれの章は「もっと○○を」と言うかたちの副題が付いており、 例を挙げながらどのような点がネックになっているかが分かりやすく説明されている。 確かにその分野の物理の素養がないと理解しにくいかもしれない。 物理の理論屋さんや実験屋さんが計算機でシミュレーションしてみようと思って 読む場合がいちばん得るところが大きいのかもしれない。

しかし異分野の人間でも、最先端ではどこが問題になっているか、どのような理論で困難が 克服されたかを知るのは大事なことではないかと思う。特に最近は、コンピュータに 計算させれば何でもできると無邪気に考えている人が多いような気がするので、なおさらである。

すこし専門的な感想を言うと、計算物理が最も活躍する分野と思われる分子動力学のところ にもうすこし詳しく説明してほしかった。自分の勉強不足を棚に上げていることは承知の上だが、 導入部分の後に、いきなりシミュレーション結果の紹介になっていたので、シミュレーションの 手法の紹介などを入れてほしかったような気がする。もちろん紙数の関係上しかたない部分もあるだろう。

実際にやってみる場合を考えて、数学ノートや参考文献が充実しているのはうれしい。

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『アドバンスド JAVA ネットワーキング』パラシャント・スリドハルン 著 プレンティスホール

実はこの本は第2版が出ている。初版は Java 1.1 時代に書かれた本なので、 ActionListener などはないし、その他古い書き方をしている部分も多くある。 したがってサンプルプログラムはそのままでは意図どおりには動かないことも多い。

また、題名に「アドバンスド」とあるように、内容はある程度 Java のプログラミングになれた人を対象としており、説明もいくぶん抽象的である。

しかしそれでもこの本に価値を感じる。基本的なAPIを学習し、処理の仕組みの 解説を読んだところで、実際にそれを活用するプログラムを作成するまでには 大きな隔たりがある。この本はその隔たりを埋めるのにとても有用だ。 ソケットを用いたサーバとクライアントの作成方法、IDLやRMIを使った プログラムにおける、ファクトリやコールバックの活用法など、 参考になる部分はかなり多い。

プログラミング言語の解説書は、そのAPIの解説に当てられているものが多く、 その厚さのわりには情報が少ないように感じられるものばかりだ。 それに対してこの本は、APIから一歩すすんで、 どのようにプログラムを構築していくかと言う 話を具体例をもとに展開している。基礎を押さえた段階からさらに進みたい人に はよい本だろう。

繰り返すが、この本は第2版が出ている。買うならそちらを。

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『なっとくする数理ファイナンス』森真 著 講談社

ファイナンスが専門でない数学者が書いた金融工学の本。 ブラック・ショールズの方程式を目的としている。

数学の本は往々にして、論理的整合性を重視するあまり、 無味乾燥なものとなりがちだが、この本はむしろ著者が 理解していく道筋を記録したように書かれていて、とても読みやすい。 微分積分と、確率の知識があれば読み進めることができるのではないだろうか。

つまずきやすいところ、誤解しやすいところは、数式による説明の後に、 わかりやすい言い替えがあるのがいい。 さらに、例が非常によいものが選んであって、自明な例、離散的な例から 連続的な例が自然に理解できるようになっており、概念の理解がスムーズにできるだろう。

金融工学の本は多数読んだが、ファイナンスの専門家にとっての良書はあったが、 初心者向けの本は、あまりいいものがなかったように思う。 下手な例え話をして、結果としてうそを書いている本や ただ、dB = √dt だけ覚えておけばよい、のような安易な本もあった。 この本はそれらとは一線を画している。数学の立場から、最短コースで、 かつ省略することなく、初心者が数理ファイナンスを理解するのにきっと 役立つだろう。

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『XMLとJavaによるWebアプリケーション開発』丸山宏、田村健人、浦本直彦 著 ピアソン・エデュケーション

XMLとはどういうものかを知っていて、 Javaによるプログラミング経験がある人にとって有用な本。 1999年の本であるが、すでに古い内容も見受けられる。 しかし、具体的なXML文をどのように処理するかを実際のプログラムで 詳しく解説しているところは評価できる。

プログラムの本には2種類あって、 どのようにして行うかの手順を具体的に示す本と、 仕様を順に説明していく本がある。 英語で言うと前者がリーダー、後者がグラマーの ようなものだろうか。この本は明らかに前者のタイプである。 前者のタイプの本は、節操がなく単にできればよいと言う考えで 書かれている本も多いが、この本はXMLとJavaの思想に忠実に、 方法論を展開している。

DOMのツリー操作、LMXの実装、Servletの例、JDBCとの連携など 話題も豊富で、読者は XML + Java の可能性の高さを認識するだろう。 今となっては開発環境などの話が少し古いのが難点だが、その点に注意すれば おすすめ。

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『「頭のいい人」のしくみ』和田秀樹 著 東京書籍

著者の和田氏は著名な精神科医で受験テクニックの本なども書いているので、 書作を読んだことをある人も多いのではないだろうか。

この本の中で著者の言う「頭のいい人」はわざわざカッコ書きをしていることから も分かるように、一般に使われている意味とは少し異なるかもしれない。 知識をたくさん持っていて計算が速いといった人を頭のいい人と思われているかも しれない。もちろん豊富な知識も必要だが、知識を使って状況に応じた的確な推論が できる人のことをここでは「頭のいい人」としている。

このような能力がなぜ必要とされているか、具体的にどのような能力なのかに ついて、この本で詳しく解説している。精神医学の立場から、心理学的分析や 人格障害を例に挙げての説明は分かりやすい点も多い。しかし頭のいい人になる ためのノウハウは抽象的で、いわば他の勉強法の本でも言われている一般的なこ とに終止しているのは残念だ。もちろん、題名にも『しくみ』とあるように、 分析を主とした本であろうから当然と言えば当然かもしれない。

この本の中でいくつかの主張は、世間で一般にネガティブに考えられていることを、 その呪縛から解き放つと言う点で参考になる部分も多い。 例えば、トップにならなくても下の2割にならなければ生き伸びていくことができる という主張や、要領がよいと言うことも社会が必要とする立派な能力であるという 主張などである。トップクラスにならないとダメだとか、コツコツ地道にやらない とダメだとか思い込んで、自分の能力をうまく引き出せないでいる人にはこういう 考え方もあると言う広い視点にたてば、解決の糸口にできるかもしれない。

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