「新薬はこうして生まれる」森田桂(日本経済新聞社)
武田薬品工業元会長の森田氏の回顧録。 著者は研究者出身で社長から会長になったひとで、回顧録と言っても 研究のエピソードがほとんどを占めており、経営者と言うよりも研究者の エッセイに近い。 残念ながら私の有機化学の知識は大学教養課程で止まっているので、 薬の研究の専門的な構造解析や合成方法の話は理解できているわけではないが、 研究の雰囲気や、研究にまつわる苦労、挫折、達成などはわかる。
企業の中の研究所の雰囲気と言うのは、なかなか外からはわからないことが多い が(企業秘密なども多いし)、この本では著者の体験をもとに、成功、失敗、 競争、交流、人事、経営など様々なエピソードを紹介してくれているので、 雰囲気を知るにはいい。最終的に経営者としてトップに上り詰めた人らしく、 研究者でいながらも、蛸壷化することなく広い視野でものを考えられていて、 どのように人を育てて行くか、研究所と言う組織をどのように活かして いくべきかと言うことを、常に念頭においていると言うのがわかって 大変勉強になる。 巻末に「聞きっ放し、言いっ放しを避けるため」自らの発言を時系列で 並べているところなど、普通の経営者じゃできないですね。信念を持って やってきたことの証です。薬品業界に興味のある人だけでなく、企業の中で 研究開発に携わる人にお薦めの本です。